練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

"新鮮"な王道ミステリ/「魔眼の匣の殺人」感想(ネタバレ含む)

「魔眼の匣の殺人」 、めちゃくちゃ面白かった~!!
ミステリランキング3冠を達成し、2019年の映画化も決定している「屍人荘の殺人」 の続編です。屍人荘~は「それ使ってくる!?」っていう展開に衝撃を受けたので、今作はいったいどうなるんだろう?と楽しみにしていました。

ストーリーはざっくり、9人が研究施設「魔眼の匣」に取り残され、予言者により「あと二日のうちに、この地で、男女が二人ずつ四人死ぬ」とのお告げを受け…というもの。

本格ミステリ読みにきたのに予言か~オカルトか~」と最初は思ってしまったんだけど、いやいや、それがあるからこそ楽しめる作品でした。

いわゆる「ミステリの王道」な要素が散りばめられていながら、それについては登場人物による簡単な解説が入るので、ミステリ好きはもちろん初心者でも面白く読めると思う。しかも、登場人物の名前が容姿や性質を捉えたもの(王子っぽいから「王寺」、髪が薄いから「臼井」とか)になっていて、把握しやすくて超ありがたい。王道も抑えつつ読みやすいので、本格ミステリはちょっと堅苦しいし重たいからな~と思っている人にこそオススメしたいかも。

"ミステリのお決まり"を知っている私としては、前作よりも今作のほうが、納得感も満足感もありました!!

 

魔眼の匣の殺人

魔眼の匣の殺人

 

 

▼以下ネタバレを含む感想ですので注意。

 

ミステリの"王道"を逆手にとっていく推理

クローズドサークルほど犯罪に不向きな状況はない

比留子さんが途中で言ったこの言葉に、超頷きました。「犯人はこの中にいる」と確定している状況で罪を犯すなんて、犯人にとって不利極まりない。なぜなら容疑者が絞り込まれるから。私もそう思っていたけれど、心の中で「そうは言っても小説だし」と受け入れていたので、作中の探偵がそれを指摘する構図に痺れました。そして、「それでも」ここで罪を犯す必要がある、という"動機"から推理を広げていく展開がキレイすぎた。


「予言」というオカルト要素をうまく使った"動機"

今回の殺人は、「男女が二人ずつ四人死ぬ」という予言が発端。殺人の動機は、「この予言に"自分が該当しないように"自分と同性の人を殺したい」から。予言を信じている犯人にとっては、憎い誰かを殺したいわけではなく、「自分が生き延びるために」とった手段が殺人だった。だから、クローズドサークルだろうが、というかクローズドだからこそ、殺害するほかなかったんだよね。

本格ミステリながら「予言」を全面に取り入れた本作、正直最初は「んー、オカルトものか~」と思ってしまったところもあった。けれど、読んでみればこの「予言」こそが殺人の引き金となり、読者である「私」が予知を信じようが信じまいが納得できる動機だったことに唸った(地震の発生は都合よすぎるな、と思ったけれど)。


トリックは、これまた王道の「交換殺人」

結局、殺人のトリックは「交換殺人」。AさんとBさんが手を組み、殺したい相手を交換して行う殺人のことで、これもまたミステリの王道パターンだ。ただ、交換殺人は、あらかじめ二人の利害が一致しないと成立しないもの。全員が初対面とされた今回のメンバー内で共犯者を選ぶのは至難の業であり、それを前提に進めると今回のトリックとしては除外してしまうだろう。

しかしこのケースの「利害」は前述のとおりシンプルで、「予言に"自分が該当しないように"自分と同性の人を殺すこと」。つまり自分以外に同性が二人死んでいる状況にできればOKで、これにのってくれそうな人を共犯者としてピックアップすればいいのだ(もちろん、声をかけて実行するまでにいろいろある。それについても細かく書かれている)。そして残念ながら (比留子の自殺工作もあり) この交換殺人はうまくいかなかず、共犯者同士のこじれによって一人死ぬこととなりました。


ほんと、本格ミステリで「予言」なんてどうするんだろう、って思ったけど(予言が当たったので死にました~じゃ誰も納得しないしバカミスすぎる)、そこを綺麗に取り込んで、使い古された「クローズドサークル」に新しさをもたらすなんて…面白かったなあ。高校生の二人はいいキャラだったので、まさか被害者になるなんて思ってもおらず、残念でした。

 
まだまだシリーズ続きそうなので、次回作も楽しみにしています!明智さんのカムバックも待ってます。