練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

ちょっと変わった家族の、優しい物語/瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」感想

めちゃくちゃよかった~~!!暫定で今年の読了本1位です。最後は感動して涙が止まらなかったよ…小説で泣いたの久々。読み終わった後は清々しく穏やかな気分になります。温かくて優しい物語なので、安心して読んでください。

本屋大賞2019ノミネート作品。 

そして、バトンは渡された

そして、バトンは渡された

 

 
あらすじ

血の繋がらない親の間をリレーされ、四回も名字が変わった森宮優子、十七歳。だが、彼女はいつも愛されていた。身近な人が愛おしくなる、著者会心の感動作。

 

ネタバレあり感想


17歳の優子には、母が二人、父が三人いる。と聞くとめちゃくちゃヤバい家庭なんだな?って思っちゃうけど、そういう話ではない。


①一人目の母:事故で亡くす
②一人目の父「水戸さん」:「梨花さん」と再婚。3人仲よく暮らすが、優子が小学生のときにブラジルへ転勤に。
③二人目の母「梨花さん」:父の転勤をきっかけに、梨花さんは優子を引き取る。二人暮らしスタート。
④二人目の父「泉ヶ原さん」:梨花さんの稼ぎだけでは生活が苦しいこともあり、裕福な「泉ヶ原さん」と再婚。しかし1年ほどで梨花さんは出て行ってしまう。
⑤三人目の父「森宮さん」:梨花さんが連れてきたあらたな父。しかし今回も、2年ほどで梨花さんは出て行ってしまう。


もうとにかく、登場する親たちが全員「優子の幸せ」を第一に行動して、愛のバトンをつないだんだな~というのがしみじみと伝わってくるんだよ…。梨花さんの行動力、泉ヶ原さんの威厳、森宮さんの不器用な優しさ。親ではないけれど大家さんのぬくもり、永井先生の鋭い観察力も本当に温かい。行動だけを見ると、梨花さんがあまりにワガママで奔放的な印象を受けてしまうけど、それにもきちんと理由があるのだ。優子を愛するがゆえの。
そして、この不思議な状況にきちんと順応していった優子は本当にすごいと思う。

物語は、⑤の「森宮さん」と高校生の優子が二人暮らしをしている時間を中心に進みます。始業式には朝からカツ丼だ!とハリキるような、おちゃめな父親の森宮さん。二人は仲よく暮らしているけれど、ひょんなことでギクシャクしまったときの、永井先生の一言が刺さる。

何かを真剣に考えたり、誰かと真剣に付き合ったりしたら、ごたごたするのはつきものよ。

ほんと、そうだよね。誰かを大事に思ったら、気遣いあうのは当然のことだし、時々ぶつかったり自分の思いを漏らして関係値を作っていくもの。血のつながりの有無なんて関係ないのだ。

で、森宮さんから優子の旦那となる早瀬くんにバトンが渡ります。これまでの"親たち"にあいさつ回りをする様子が微笑ましかったなあ。
衝撃だったのは梨花さん!経済力のある(+ピアノを買える)泉ヶ原さんと再婚したものの「裕福な生活飽きた~」と言わんばかりに出て行ったときとか、森宮さんに優子を押し付けてまた出て行ったときとか、さすがに「ん?梨花さんちょっと自己中すぎでは?」と腹立たしくなってしまった自分が情けない。病気になってしまったから、万が一のときにどう優子を育てていくべきか考えたゆえの結果だったなんてね…。すべてを包み込んでくれる泉ヶ原さんとまた元に戻っていて、よかった。
とはいえ、実のパパである水戸さんからの手紙をずーっと優子に見せなかったのはなかなか罪深い。感動的なシーンだったので「優子ちゃんが私から離れるのが怖くて」という気持ちもわかるような気がしたけれど、優子が父に出し続けていた手紙の返事なんだから、渡してくれよ!とあとから思ってしまった。パパさん、転勤して2年後に日本に戻ってきてたなんて~!すぐやん!!

クライマックスの結婚式シーンは本当に涙が止まらなかった。そこだけ視点が森宮さん視点になるんだよね、ずるいよ。久々に読書でこんなにしっかり泣いてしまった。

バージンロードを共に歩く相手を森宮さんにお願いする優子。「最後の親だから俺なんだろ」と言う森宮さんに対して、

森宮さんだけでしょ。ずっと変わらず父親でいてくれたのは。私が旅立つ場所も、この先戻れる場所も森宮さんのところしかないよ

…とまっすぐに言える優子…!もうジーンときてしまったよ。

どうしてだろう。こんなにも大事なものを手放す時が来たのに、今胸にあるのは曇りのない透き通った幸福感だけだ 

冷静に考えれば、森宮さんと優子の関係って超遠い。なのに、血のつながりとか関係なしに、お互いがめちゃくちゃ大事な存在になってる。常に、「俺は優子ちゃんと暮らせてラッキーだ」って笑う森宮さんが素敵すぎる。

優子ちゃんと暮らし始めて、明日はちゃんと二つになったよ。自分のと、自分のよりずっと大事な明日が、毎日やってくる

子どもを持つことで、「明日が二つになる」っていう表現、本当に素敵だなあ。いつか私も子どもができたら、そういう風に、自分の明日と子どもの明日を重ね合わせるのかな。


優子は最初からいい子だし、森宮さんもずっと素敵な人。二人の間に大きな衝突はないし、優子に悲壮感もない。それゆえに、わかりやすい起承転結とか成長みたいなのはない。だからこそ登場人物みんなの優しさが心に沁み込む、穏やかで素敵ないい作品でした。