練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

何が正義か/深緑野分「ベルリンは晴れているか」感想

このミステリーがすごい!2019年版」で国内編第2位を獲得、直木賞の候補にもなった本作。舞台は戦後のドイツなんだけど、いや、重たい重たい。「幕間」として描かれるヒロイン・アウグステ(とその家族)の過去は、ナチス政治下の真っ只中なんだもん。描写がリアルすぎるがゆえに、しんどくなっちゃってけっこう読み飛ばしちゃった。

 

ベルリンは晴れているか (単行本)

ベルリンは晴れているか (単行本)

 

あらすじ

1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4ヵ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり――ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。


<ネタばれあり感想>

物語は「アウグステの恩人・クリストフが、歯磨き粉に含まれた毒で死んだ」という事件から始まる。で、彼の訃報を伝えるため、ヒロイン・アウグステ(と、ひょんなことから同伴する泥棒・カフカ)は、亡くなった男の甥・エーリヒに会いに行く。エーリヒを探す旅は、ぐっちゃぐちゃな戦後ドイツで敵から隠れたり変装して侵入したりとスリリングで面白い。というか、アクションが全然フィクションに見えないのが怖いくらい。逃げたり戦ったりが当たり前の世界だから。
幕間として描写される、アウグステ(と家族)の過去はナチス支配下のドイツ。しんどくて読み飛ばしたくなるシーンばかりだったけど、だからこそ、アウグステの両親やホルンなど強いキャラの魅力が光る。

クライマックスは一番最後。正直、「誰がクリストフを殺したか」なんて考えるの忘れて読み進めていただんだけど(アウグステたちが生き延びるのを応援するのに必死で、それどころじゃない)、すべての謎がアウグステから語られ、衝撃を受けた。犯人、アウグステだったのか。しかもクリストフは、子どもを薬で衰弱させて殺していたという劣悪非道な殺人鬼。アウグステの大事な大事な、唯一の「守ってきたもの」を殺した男。彼女にとって、"殺されてしかるべき"男だったんだね。クリストフの動機がイマイチわからなかったけど、動機とかきっと、なかったんだろうな。

物語の終盤で、アウグステ、カフカ、エーリヒ、そして軍曹トーリャの4人で楽しげに酒を交わすシーンがある。平和な時代だったら、年齢の近い4人はこうやって仲良くなれたのかもしれないと思うと切ない。"普通"の幸せ。

にしても、今作に限らずだけど、戦争モノを読むと「いったい何が正義なのか」わからなくなる。自分が生き延びるためには、モノを盗んだり誰かを殺したりが必要になってくる世界。。むしろ、敵を殺すことが称賛される世界。そんな時代でも、アウグステにとっては「一冊の本」が希望になるのだから、やっぱり"物語"は偉大だなと感じた。

ミステリというより、ノンフィクションルポのような、ずっしりとした重厚な作品だった。