練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

人を"紡ぐ"医療ミステリ/知念実希人「ひとつむぎの手」感想

知念さんの作品を読むのは「崩れる脳を抱きしめて」に続いて2冊目です。作者ご自身も内科医とのことで、舞台はお得意の医療現場。こういった専門的な分野を扱う小説はたいてい、難しくて流し読みになっちゃうんだけど、知念さんの文章はカジュアルにさらっと読めるのがありがたかったです。

本屋大賞2019ノミネート作品。

ひとつむぎの手

ひとつむぎの手

 

 

あらすじ
大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、三人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば……。さらに、赤石を告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。医療ミステリーの旗手が挑む、スリリングなヒューマンドラマ!

 

ネタバレあり感想
主人公の平良があまりに不遇!!病院内の派閥争いみたいなものに巻き込まれたり、「希望の病院への出向」をエサに研修医の指導を任され(押し付けられ)たり、…。主人公の未来に光が見えないスタートなので、最初はちょっと、読むのがしんどいくらいだった。何より、ずーっと右手中指の"震え"がクローズアップされており、平良が医療ミスとかしちゃうんじゃ!?と気が気じゃなかった。結局この中指の傷は、ライバルである針谷によって(不慮の事故とはいえ)傷つけられたものであったり、最終的には震えが収まることによって手術が成功したり、と、ちょっとしたスパイスとして存在してただけなんだけど。


3人の研修医と平良の関係性が深まっていく様子は、「平良が研修医と衝突する→医療現場で問題発生→平良のひたむきな姿勢によって問題解決→研修医が平良を尊敬する」っていうお決まりのパターンではあったものの、気持ちいい展開ですっきり。最後に研修医たちが「平良さんのような医師になりたい」と言葉で伝えるシーンは、ベタながらもじーんときました。尊敬に至るまでがあっさりすぎない?とは思ったけど、現実ってそんなもんだよね。信頼を失うのも一瞬だけど。
一方で、権力者である赤石教授を告発する怪文書のミステリは、必要だったか?と感じるほどの浅さでした。まあ、これを機にもっといい病院を作っていこう!みたいなエンドだったので、そういう意味では必要だったのかもしれない。


平良は"まじめでいい人"がゆえ、なんだか都合よく使われたなー感がぬぐえないけど、まじめでいい人だからこそ、家族も研修医もしっかりついてきてくれたということで。一応、めでたしめでたし、なのかな。もうちょっと、待遇面で報われてもいいんじゃないかなって思っちゃった。

誰のせいでもないんだよ。誰が悪いわけでもないのに理不尽なことが起こる。それが現実なんだ。そして、医師というのは理不尽を呑み込まないといけない

私たちはただ血管を紡ぎ合わせているんじゃない。患者の人生を、ひいては『人』そのものを紡いでいるんだ

個人的には「崩れる脳を抱きしめて」より好き!