練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

本屋大賞ノミネート:原田マハ「たゆたえども沈まず」

2018年本屋大賞ノミネート作品。

原田マハさんといえば「暗幕のゲルニカ」「楽園のカンヴァス」など美術をテーマにした作品が魅力的。今作「たゆたえども沈まず」は、ゴッホ兄弟と日本人美術商のストーリー。

たゆたえども沈まず

たゆたえども沈まず

 

誰も知らない、ゴッホの真実。

天才画家フィンセント・ファン・ゴッホと、商才溢れる日本人画商・林忠正。二人の出会いが、〈世界を変える一枚〉を生んだ。

1886年、栄華を極めたパリの美術界に、流暢なフランス語で浮世絵を売りさばく一人の日本人がいた。彼の名は、林忠正。その頃、売れない画家のフィンセント・ファン・ゴッホは、放浪の末、パリにいる画商の弟・テオの家に転がり込んでいた。兄の才能を信じ献身的に支え続けるテオ。そんな二人の前に忠正が現れ、大きく運命が動き出すーー。『楽園のカンヴァス』『暗幕のゲルニカ』の著者によるアート小説の最高傑作、誕生!

 

同じく美術ものの「暗幕のゲルニカ」「楽園のカンヴァス」は、どちらかというと「謎」に重きをおいたアートミステリーだったんだけど、この作品は一味違って「人と人」とのつながりが濃密に描かれていた。

冒頭はちょっと入り込みにくいな~と思いつつ、徐々にパリとアートの暗くて深い世界観に没入していき、3分の1を過ぎたあたりで完全にのめり込む。重厚感たっぷりの1作。

兄・フィンセントを想う弟・テオの愛がめちゃくちゃ重かった…。結局ふたりとも、お互いがなくては生きていけないほど依存しており、それがあったからこそゴッホの絵は輝けたということ。「アーティスト」の独特の世界。作者の幸せが良い表現につながるとは限らない、むしろ不幸の中から溢れるものがある。

日本人画商・林忠正は実際に存在する人なんですね。私は知らなかったけど、いち早く浮世絵の可能性に気づき、パリでビジネスを成功させた勘の鋭さに驚いた。浮世絵が印象派に影響を与えていたことも知らなかった。

重吉とテオの友情関係もよかった。この重たい雰囲気の中で、このふたりのシーンはホッとさせられました。

 

読み終わったあと、表紙にもなっている絵「星月夜」を見る目が変わった。もともと好きだったけど、やっぱり素敵だよね。