練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

舞台「魍魎の匣」が凄まじかった(原作ファンの感想)

京極夏彦原作「魍魎の匣」の舞台を観てきました。6/23(日)の昼公演。前から4列目でセンターブロックだったので、役者さんたちの表情もしっかり見えた〜!

魍魎の匣」を読んだのは中学生のとき。原稿用紙に黒塗りで書き込まれた久保の小説表現が怖すぎて、当時映画化もされたのに観に行けなかったという思い出…。原作ファンとしても満足度高い舞台だったので、サクッと感想書いておきます。ネタバレ注意!

 

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1000ページ超えの原作を2時間で魅せきる「編集力」に感動

まず、辞書並みの厚さが売り(?)の超長編を2時間におさめたのがすごすぎる。前半はかなーり駆け足の展開だったので、ちょっとでも集中力が途切れると話から置いていかれてしまう危うさはあった。が、大事な場面やキーフレーズはきちんとおさえられていたために、原作へのリスペクトや愛がひしひしと伝わってきたのが素晴らしい。今作はいろんな事件が複雑に絡み合う(絡み合っているように見える)ので、ひとつひとつ丁寧に追いかけると絶対的に時間が足りないはずで、私もそこを懸念していたんだけど、回想シーンをうまく使うことでスムーズに話が繋がっていた。脚本と演出の力なのかな、編集力凄まじい!舞台道具が常に動いていたと思う、お疲れ様でした。

 

まるで自分も「匣」の中にいるかのような演出

私は舞台を観たことがほとんどないので、何が一般的で普通なのかわからないんだけど、要所要所の「演出」がとても効果的だと感じた。まず、上記した「回想シーン」の演出。シンプルな「枠」で表現されるシーンが繰り返されることで、観客に対して「枠」=「匣」の概念が刷り込まれていく。そしてクライマックスシーン。機械音がどんどん大きくなり、気づけば自分のいま座っている劇場が「匣」であることに気づかされる恐ろしさ。もう最後の憑き物落とし(美馬坂研究所の謎)のところ、私も「それ」の中にいるのかと思うと具合が悪くなりそうだったよ。後ろで鳥口くんもめちゃくちゃ苦痛に悶える表情をしてたけど、本当そんな感じ。京極先生も「小説という匣に閉じ込めた忌まわしい妖物が、舞台という匣に移されるそうです」とおっしゃってて(パンフレットより)、ぞわぞわしちゃいました。あとは、最後。あちらとこちらの「境界線」を、舞台を使って表現していたのも粋だったなあ。雨宮くんの最後の一歩で鳥肌が…。

細かいところでいうと、登場人物の名前が後ろのスクリーンに映る演出、スマートでわかりやすくてよかった。これは小説にはできない、舞台ならではの良さだよね。あとは、「鈴の音」や「蝉の音」が鳴る表現も再現されていたところが嬉しかった。京極堂といえば眩暈坂の上に位置する古書店であり、この坂道を登った先にたどり着ける場所…という印象が強く、とりわけ「うだるような夏の暑さ」が似合うと思うので(眩暈坂はさすがにカットされてたけど)。

 

すとんと受け入れられた、美しい役者勢

ポスターやパンフレットでみたときは、正直京極堂以外のビジュアルにピンときておらず、「これただの美男美女集めただけじゃない?大丈夫?」と思っていたんだけど、いざ観劇してみると思いのほかハマってた。

橘ケンチさんの京極堂中禅寺秋彦)は、原作よりもやる気のある(!)美しい京極堂でした。京極堂ってもう少し仏頂面で、切れ長で、もっと腰の重たい印象なんだけど、尺の都合上最初から出てきてもらわないと困るよね、ってことで。マジカルステップもキレキレで、そっかこの人EXILEだもんなあ、とその瞬間に思い出すなど。原作ではもっともっと薀蓄垂れ流すし嫌味ったらしいんですよ。このシリーズでは京極堂推しの私ですが、この美しい京極堂もありでした。「関口くんは友人、いえ知人です」も言ってくれてありがとう。

関口巽はちょっと健康的すぎる気もした。メンタル最弱で鬱々としていて感受性が強い彼だからこそ、他人の強い言葉にすぐ感化されてしまい、あちらの世界に落ちそうになるラストが活きてくるので。クライマックスまではただの「自信のない小説家」って感じの描かれ方だったから、原作未読の人にとっては、なぜ彼が途中で狂いそうになるのかがわかりにくかったかもなあ、と。ともあれ原作の関口くんはウジウジしすぎてて嫌なので、これくらい軽口を叩ける普通っぽい人のほうが私としてはいいかも笑。

榎木津礼二郎はちゃんと足が長かった…!この作品の中で、三次元の人間が演じるのが一番難しい役だと思うんだけど、ビジュアル仕上げられててびっくりした。本来はもーっと破天荒で、型破りで、一匹狼です。今回は(これも尺の関係上)協力的だったのがある意味面白かったな。この重苦しい〜話の中で、榎さんの軽い存在にだいぶ救われた。

木場修太郎!かっこよかったよ!!アツくてまっすぐで正義感の強い男なんだけどさ、いや、さすがに宮迫ではなくないか?と思っていたので…(映画)。最初役者さんをみたときはなんか違うなーと思ったんだけど、舞台ではキマってました。低くて太い声も合ってた。やっぱり魍魎の匣木場修の物語でもあるな。

個人的には柚木加菜子がイメージぴったりだった。人間離れした美しい声、宗教的に響く話し方。頼子が信じてしまうのもわかる気がする。そのほか、久保竣公の怪演にはゾクゾクしたし、鳥口くんの「うへぇ」は文字で見るよりすんなり受け入れられたし、敦子はとっても可愛かった。陽子を演じた紫吹淳さんも美しかったなあー。

 

まとめ

この作品は狂気的すぎて中学以来読み返していないため、正直細かいところ全然覚えていなかったので、原作との相違点とか全然洗えてないけど…、総じて満足だった!犯人は覚えていても、細かい人物同士の設定とかはすっかり忘れていたし、こんなに「人間として生きるとは」を問われるテーマだったなんて。あとは、思春期特有の潔癖感ね。信じきっていたものに1つ汚れを見つけるだけで、気持ち悪くなっちゃうことって、あるよね。通りもんに負けそうになる感覚といい、今ならわかるかも。匣の中の描写はあまりにリアルだとちょっと無理…って思ってたけど、そこはギリギリ大丈夫でした(痛みは伝わってきた)。

パンフレットには演出の松崎史也さんと橘ケンチさんの対談も載ってたよ。私は人狼TLPTも追っているので、マドック役の松崎さんの演出と聞いて二度美味しい舞台でした。二人は同年代なんだね!

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次回はぜひ、「絡新婦の理」を映像化(舞台化)お願いします。百鬼夜行シリーズの中で一番好きなので。そして「鵺の碑」はいつ発売になるのか…(10年待っている)。

この世には不思議なことなど何一つないんだよ、関口くん。

 

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