練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

サクッと読めて面白い、近藤史恵「ビストロ・パ・マル」シリーズ感想

とっても読みやすくて面白い小説を今更ながら見つけました。近藤史恵の「ビストロ・パ・マル」シリーズ。

ビストロを舞台にした連作ミステリ短編集で、近藤史恵さんらしく「日常の謎」を盛り込んでいて飽きない。登場人物も魅力的で、出てくるお料理も美味しそう。

「読書したいけど何読んだらいいかわかんない」「あまり重たいのは読みたくない」という方にぜひおすすめしたいシリーズです。
 
全3作が刊行されていますが、ここでは2作を紹介します。
 

タルト・タタンの夢

タルト・タタンの夢 (創元推理文庫)
 

 

表題作を含めて7編が収録されています。
作品のタイトルは食べ物にちなんだものが多く、まるでビストロのメニューのような目次になっていておしゃれ。
 
  • タルト・タタンの夢
  • ロニョン・ド・ヴォーの決意
  • ガレット・デ・ロワの秘密
  • オッソ・イラティをめぐる不和
  • 理不尽な酔っぱらい
  • ぬけがらのカスレ
  • 割り切れないチョコレート
 
この作品の「視点」を務めるのは、ビストロ・パ・マルでギャルソンをつとめる、ぼく・高築智行。
登場人物一覧もこんな感じで可愛いです。
 
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物語は、小さなビストロにくるお客さんのちょっとした謎を、料理長の三舟シェフが解いていくというお話。謎の華麗な解決はもちろん、おいしそうな料理の描写が最高。
馴染みのない料理の名前も、
ブランダードは、干し鱈とじゃがいもをすりつぶしてオーブンで焼いたもの。フランスの家庭料理だが、なめらかなクリームに近い状態にして、アンディーヴやクレソンやアーティチョークなどの、苦みのある生野菜と一緒に食べるのが、三舟シェフのオリジナルである
などとサラッと説明が入るので大丈夫。
特に食後に出される「ヴァン・ショー」が飲みたくなること間違いなし。
赤ワインをお湯で割り、そこにオレンジの輪切りとクローブ、シナモンを加えて出来上がり。フランスでは、風邪を引いたときや、寒い夜に定番のヴァン・ショー、つまりホット・ワインである
おいしそう…!
 
続けて2作目へ。
 
 

ヴァン・ショーをあなたに

 

目次はこちら。
  • 錆びないスキレット
  • 憂さばらしのピストゥ
  • ブーランジュリーのメロンパン
  • マドモワゼル・ブイヤベースにご用心
  • 氷姫
  • 天空の泉
  • ヴァン・ショーをあなたに
 
シリーズ2作目だが、1作目とはちょっとだけ毛色が違う。
1作目は「ビストロ・パ・マル」をメインとし、ここを取り巻く人々…がゲスト的な役割で登場する形だった。本作はそれよりも、来店するお客さんその人にフォーカスがされている。
 
大矢博子さんのあとがきでこの「違い」について述べられていて、とても納得したので引用しておきます。
料理は作り手だけで完結するものではない。食べる人がいてこその、作り手である。そしてレストランに来る客にはそれぞれの生活がある、という当たり前の事実がある。
食べる人がいてこその、作り手である。そこが色濃く表れているのが本作だ。
 
たとえば「天空の泉」の舞台はヨーロッパで、そもそも「ビストロ・パ・マル」が出てこない(できる前)。けれど、おいしい料理と三舟シェフの話術によって、この章の主人公・江畑さんの硬くなった心がほぐれていき、前を向けるようになる。三舟シェフは昔から、謎を解決するパワーがあったんだなあと思わせる1編でもあります。
 
ちなみにオムレツの描写があまりにもおいしそうです。
木の葉型に整えられたオムレツが運ばれてくる。そっとナイフを入れると、薄い皮が破れてとろりと中身がこぼれ出る。いっそう濃いトリュフの香りがあたりに漂った。フォークに載せて口に運ぶ。卵の濃い味とトリュフの芳醇な香りが鼻に抜けた。なんと形容していいのだろう。シンプルなだけに、まさに完璧とも言えるバランスだった。
 
個人的には特に、表題作が好きだった。おばあちゃんの作るヴァン・ショーにまつわるお話。「料理」とそこに込めた「思い」がグッと伝わってきます。
 
 
3作目の「マカロンはマカロン」はまだ読めていないので、読み次第追記したいと思います。