練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

有栖川有栖「インド倶楽部の謎」ネタバレあり感想(トークショーレポ含む)

大好きな有栖川有栖さんの国名シリーズ最新作「インド倶楽部の謎」。
早速読んだ&トークショー(@下北沢B&B)にも行ってきたので、そのレポも含めて感想を書いておきます。
 
インド倶楽部の謎 (講談社ノベルス)

インド倶楽部の謎 (講談社ノベルス)

 

 

一応前提。国名シリーズは、犯罪臨床学者の火村英生とミステリ作家の有栖川有栖がタッグを組んで謎を解いていく、「作家アリスシリーズ」の中のひとつ。タイトルに国名が入っているものを指します。ジャンルは本格ミステリ
 
ちなみに国名シリーズでいうと13年ぶりの新作らしい。私が有栖川作品のファンになったのが5年前くらいなので、リアルタイムで新作を読めるのは初めてです。嬉しい!
 

あらすじ

前世から自分が死ぬ日まで――すべての運命が予言され記されているという「アガスティアの葉」。神戸の異人館街の外れにある屋敷では、この神秘の葉を一目見ようと<インド倶楽部>のメンバー七人が集っていた。しかし数日後、港で変死体が揚がり殺人事件が相次ぐことに。まさかその死は予言されていたのか? 捜査をはじめる臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は、謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫っていく!
 
さて感想ですが、ミステリなのでどう書いてもネタバレになってしまうので、以降気を付けてください。(トークショーでも、「本の内容には触れられないからな~」と話題探しが大変そうでした)
 

ネタバレあり感想 

まず、「前世の存在」を信じ切っているというめちゃくちゃアヤシイ人たちの例会から始まる本作。謎のインド人によって「死ぬ日」まで予言され、それも信じているメンバーたち…。始まりから胡散臭すぎて不安になるくらい。
 
私は火村やアリスがこういったオカルトとは無縁の存在だと知っているので、こんなふわふわな登場人物たち相手にどうやって切り崩していくんだろう…とまず思いました。有栖川さんご自身も「インド倶楽部なんていかにも怪しすぎる」とおっしゃっていた(でも、数人でコソコソしているテーマがお好きらしい。「乱鴉の島」しかり)。
 
例に漏れず殺人事件が起こるのだが、その謎を解くカギはまさかの「動機」。本格ミステリはどちらかというとトリックに重きを置かれることが多くて、動機やら登場人物の心情やらは置いてけぼりになりがちと感じていたんだけど、今作はそこを逆手にとった形だったな。いや〜RADWIMPSの「前前前世」が出てきたときは「えっいまさら」と思いましたが、かけてたんですね。前世の物語が動機になるなんてふつうじゃありえない、けれど、丁寧に丁寧に登場人物の心情が描写されていたので意外と腹落ちしました。
 
シリーズを追っている身としては嬉しいシーンもたくさん。過去作のタイトルが出てきたり、火村アリスの出会いの話が出てきたり。ちなみにインド倶楽部に所属しているカウンセラーによると、火村アリスは「互いに深く理解しあっている」=「ソウルメイト」らしいです。…とオカルトな流れでサラッと出てきて逆に嘘っぽく感じたので、それよりも「カレー友だち」のほうがリアルでしっくりきた。
いや、それよりも!輪廻転生を全く信じない火村に対する、カウンセラーの洞察が鋭かった。
あなたは、一回きりの命の尊さを信じて、それを愛している人なんだ。そういう方ならば、人殺しなんか到底赦せないでしょう。だから犯罪について研究している。
 
そういえば、火村をいつも疎ましく思っている野上警部の心情描写もあった。
犯罪学者やなんて、まどろっこしい。あの男は、なんで最初から刑事にならんかったんや?
という火村への疑問はごもっともだと思います。それゆえの、彼に対するモヤモヤなんだろうなあ。
 
全体としては、「火村とアリスが神戸の街を歩くところを楽しんで書いた」のだそう。火村シリーズは終わらせる気がない、ずっと書き続けたいとおっしゃっていて一安心。どのシリーズも完結させてないんですけどね、ふらふら気の向くままに書いてたらこうなって、と笑ってました。あとがきにも「タイプを散らして多様な書き方をしたい」とあった。
 
今作は、火村に詰められた犯人があっさり自供したので解決したものの、正直ロジックというよりは「想像と消去法」で導かれた犯人だった(と、作中でもアリスが言ってる)。ガチガチのロジカル世界ではなかったけど、それゆえに登場人物の人間らしさが垣間見えてよかったな。
 
来世は明日、前世は昨日。
 
 
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ちなみにトークショーでは「ミステリの存在論」的な話もされていました。有栖川さん曰く、「ミステリーは作者が『どこを問題にするか』に依存する」とのことで、結局トリックは「できないと思っていたことをできるようにするもの」であるから、そう考えるとどんなにあらゆる手段を否定しようとも「とはいえトリックを使ってできる可能性」は残ってしまうと。そんな話を「ペルシャ猫の謎」で書き、さらに深めたのが江神シリーズの「除夜を歩く」なんだとか。間が空きすぎていて、この関連性は気づいてもらえないって言ってたけど。
 
あ、あと、このトークショーが作品の内容に触れられない(刊行してすぐなのでネタバレを避けるため)、という性質も相まって、エラリー・クイーンの国名シリーズについて語りまくってた。「インド倶楽部の謎」はクイーンが書こうとして書かなかった作品(タイトル)で、20年くらい前からずっと書きたかったのだとか。クイーンのシリーズが長編だから、自分のは短編でいこうと思っていたけど、3作目が思いのほか膨らんでしまい長編になったと。結果、長編と短編のミックスになっちゃったところが自分らしいなあ、とのこと。
 
トークショー参加者は8割方女性でした。私、受付開始時間後すぐにアクセスしたはずなのに、整理番号後ろのほうだった。40代くらいの方が多かったかな。着物の方もちらほら。可愛い猫サインをいただけて満足です。
 
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帯の「華麗なるラストサプライズ」だけはよくわからなかった…。どういうこと?
 
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