練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

"謎解き好き"にオススメしたい小説、「どんどん橋、落ちた」

館シリーズで知られる綾辻行人の著作、「どんどん橋、落ちた」を読んだ。99年刊行と約20年も前の作品なのに色褪せず、面白かったので紹介したい。

 

それぞれが「問題編」「解決編」に分かれたミステリ短編集で、小説の形をした犯人当ての推理パズルのようなものだ。正直「動機」や「人間ドラマ」の作り込みは甘く、それについては作中で作者自身も述べている(弁解している)。ただ、純粋なフーダニット…誰が犯人か?を楽しめる作品となっており、ミステリを読み慣れてなくとも"謎解き好き"の人にぜひ読んでみてほしいと思った。

 

以下の全5話が収録。
・どんどん橋、落ちた
・ぼうぼう森、燃えた
フェラーリは見ていた
・伊園家の崩壊
・意外な犯人

 

たとえば1作目、表題作の「どんどん橋、落ちた」。綾辻行人のもとに、ひとりの男性:U君が「僕が書いた小説を読んで、犯人を当ててください」とやってくる。その小説を(強制的に)我々も読まされ、綾辻行人と共に推理するというメタ構造になっている。

「問題編」と「解答編」の間に挟まれているのは、由緒正しき「読者への挑戦」ページ。

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※ネタバレ防止のため被害者の名前はモザイク


犯人は誰か、その犯行方法は何か。
U君から綾辻行人への挑戦、という体をなしているが、まぎれもなく「作者から読者への挑戦」である。

問題はかなり難しい。きちんと推理を重ねていけたとしても、綾辻行人らしい「仕掛け」があるので、犯人(とその犯行方法)にたどり着くのは至難の業だ。

また、最初に「この作品は並べられた順番どおりにお読みください」と注意書きがしてあり、「1作目はこうきたか。2作目はさすがに違うよな、ダマされないぞ」という気概で読み進めるのだが、それをまんまと逆手にとられてしまうのも作者の思うツボで愉快です。。

私は5作目の「意外な犯人」、惜しいところまでいったのだが、(作中の)綾辻行人と同じところでミスってしまってとても悔しかった。

 

ミステリを読み慣れた人にとっては、作中で、綾辻行人が執拗に「ミステリのお約束」であるヴァン・ダインの二十則やノックスの十戎(※)を引っ張ってきては、「フェアですよね?」「きちんと守っていますよね?」と何度もU君へ念押しするのがまた面白い。ミステリ好きへの配慮(…というか保険)もバッチリということである。登場人物名もクスッとくるものばかりで、特に同業の我孫子武丸先生との仲の良さが伺えます。


*1


ミステリを読み慣れた人はもちろん、そうでない人にこそオススメしたい。短編集なのでサクサク読めると思います。これを読んでミステリに興味を持ったら、ぜひ次は、きちんと動機や人間の描かれた長編を読んでください。笑


以上、ざっくり感想でした。

*1:ヴァン・ダインの二十則やノックスの十戎…推理小説を書く上での基本ルール。たとえば「探偵方法に超自然の能力を用いてはいけない」(=超能力とか魔術で事件を推理したり解決したりしてはいけない)とか。読者に対してフェアにいこうぜ、的なものです。