練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

芦沢央「悪いものが、来ませんように」ネタバレ感想

久々に、湊かなえ以来の「イヤミス」に出会ったので感想書いておきます。しかし、まんまと騙されました…!とにかく終始「違和感」があるんだけど、それがなんなのかじっくり考える暇もなく物語がどんどん展開され…このねっとりした「気持ち悪さ」がある意味快感でした。

芦沢央さんの「悪いものが、来ませんように」。芦沢さんの作品は初読。 

 

悪いものが、来ませんように (角川文庫)

悪いものが、来ませんように (角川文庫)

 

 


【注意】以下、ネタバレあり感想。

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まんまと騙された。

奈津子と紗英!友達じゃないなんて!!


この物語の「騙されポイント」は2つあって、1つ目が「奈津子と紗英の関係」、2つ目が「旦那殺しの真相」である。私が「騙された!!」とスッキリ思えたのは、1つ目のポイント。序盤からず~っと違和感はあったものの、二人の真の関係に確信を持ってたどり着けなかった。2つ目のポイント「旦那殺しの真相」は物語の基軸とはなっているけれど…、犯人視点で「ぼかされていた」シーンの種明かしなので、そんなにヤラレタ感がなかった。あとは、なぜか親子の感動シーンっぽく描かれているので、読んでいるこちらとしては冷めてしまった。


なぜ「奈津子と紗英の関係」に騙されたのか、書いておく。

1.冒頭の構成による思い込み

この作品は、「奈津子」視点、「紗英」視点、「第三者」が彼女たちについて語る視点、の3つが入れ替わる構成にて成り立っている。

彼女たちの関係性は、プロローグ~第1章にてざっくり把握できるように描かれている。
・「奈津子」が自身の赤ちゃんに手を焼いているプロローグ
・次章で「紗英」と「奈津子」は何でも相談し合える関係である描写
・「奈津子」は幼稚園児「梨里」を育てている

読者はここでまず、「プロローグで奈津子が育てていた赤ちゃんは「梨里」だ」「奈津子と紗英は古くからの友だちだ」と登場人物の関係性をざっくり推察する。紗英は奈津子を「なっちゃん」と呼ぶし、こう読むのが自然な流れであると思う。

 

2.「違和感」を後回しにしてしまう怒涛の展開

とはいえ、紗英が奈津子に日々の送迎を頼んでいたり、二人並んでお昼寝したり、二人の依存的な人間関係に強烈な「違和感」を覚えるのもたしかだ。

二人はただの友人関係なのか?それとも…?とふわふわ思っている間に進むストーリーは、とても不穏な空気をまとっている。「第三者」視点では、奈津子の旦那や、紗英の同僚によって「なんらかの事件について」語られ、ここでどうやら「誰かが旦那を殺した」ことがわかる。

さらに、紗英が不妊と旦那の浮気に悩む姿も描かれていることから、おそらく殺されたのは「紗英の旦那」であるだろうと読み進める。実際に、物語中盤でこれが間違いないことが決定される。

ストーリーの主軸は「いったい誰が殺したの?」というもので、(当たり前だが)このメインの展開に気が向いてしまうので、「奈津子と紗英の友人関係」について立ち止まって追求する暇はない。

というのと、この事件が明らかになるにつれて、奈津子と紗英の「異常な依存」は、もしかして「共犯関係」から生まれてくるのではないか、とミスリードさせられる要素もはらんでいる。だから「友達」であっても特殊な関係にあるのは普通なのかも、と少なくとも私は読んでしまいました。まんまと!

 


物語終盤における奈津子の「一言」によって、彼女たちが「母娘」であることがわかるのだが、そのときの衝撃たるや。たしかに、親子かも、って思った瞬間はあったけど、「梨里」の存在があったのでその可能性は消去していました。なるほど梨里は、紗英の妹の「鞠子」の娘とは。つまり梨里は奈津子の「孫」だったのね…!やられたー。

 

読後感は悪いです。イヤミスだと思います。ていうか娘の家をのぞく母ってどうなの?超気持ち悪いと思いました。なのに最後は、「娘をかばって罪をかぶった」みたいな、感動っぽい真相なのも解せません。

ただ、最初から種明かしされるまで終始「違和感」が漂っているのに、その正体に気づかせないという、巧みな構成とストーリー展開に完敗しました。。