練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

"スクールカースト"に留まらない、少女たちの友情物語:「マウス」「本屋さんのダイアナ」

めちゃくちゃ良い本を読みました。村田沙耶香「マウス」と、柚木麻子「本屋さんのダイアナ」。

2冊に共通するテーマは「女同士の友情」。…と言葉にすると超薄っぺらく感じるけど。女子同士のあるあるな「共感」と、こんな友人関係できたら素敵だなあという「憧れ」とで、胸がいっぱいになります。

 

 

村田沙耶香さんは、芥川賞受賞作「コンビニ人間」を読んでからとても好きな作家さん。その人の個性とか周りと違っている部分を、淡々とやさしい目線で描写していく。ちょっと変わった人の生き方も、「それもありだなー」と思わされる構成が素敵。

マウス (講談社文庫)

マウス (講談社文庫)

 

私は内気な女子です――無言でそう訴えながら新しい教室へ入っていく。早く同じような風貌の「大人しい」友だちを見つけなくては。小学五年の律(りつ)は目立たないことで居場所を守ってきた。しかしクラス替えで一緒になったのは友人もいず協調性もない「浮いた」存在の塚本瀬里奈。彼女が臆病な律を変えていく。

今作でいうと、内気なヒロイン律の友人となる瀬里奈はおとなしく静かで、時々急に泣き出しちゃうような、いわば教室で浮いている女の子。物語の最初の舞台となる小学校にはもちろん、女子のヒエラルキー的な「グループ」関係が存在している。他の小説ならきっと、律の葛藤は「瀬里奈と接することでハブられた」とか「瀬里奈と友達になりたいけど周りの目が気になってうまく接せられない」みたいな話になりがちなんだけど、この話はそうではなくて「瀬里奈が一体何を考えているのか」に惹かれて、彼女の内面に一歩踏み込んでいく。こういう物語の展開、いいなあと思った。読みながら、「ヒエラルキーの一番下の女の子と仲良くしたら、律、ハブかれるよ!?」って思ってしまった自分の心の狭さ…。

律が「くるみ割り人形」を瀬里奈に話聞かせると、物語に出てくる強いヒロイン「マリー」に感化され、人が変わったように堂々と振る舞えるようになる瀬里奈。もともと手足が長くて顔も整っていた瀬里奈には、どんどん人が集まってくるようになり、その中でも人に媚びない性格が功を奏して、クラスの「憧れの的」となる。華やかなグループに混ざっていく瀬里奈と、内気で真面目に過ごしていく律は、次第に離れていく。

人に媚びず個性的に生きていく瀬里奈と、頑張って周りに協調しながら生きていく律。お互いがお互いの考え方に理解できずに衝突したあとに、きちんと価値観を受け入れていく二人の友情が眩しすぎて、「これが本物だよなー」と読み終わったあとはとてもあたたかい気持ちになった。スクールカーストの中でどう生きるか、みたいな、小さい友情物語じゃない。

 

 

本屋さんのダイアナ」も同様だ。柚木麻子さんの作品は、「ランチのアッコちゃん」みたいなハッピーで元気をもらえる明るいものものあれば、「ナイルパーチの女子会」のようなブラックでえぐみのあるものもある。この作品は、後者のような「リアルな女世界のエッジ」もきかせながら、それを越えて前向きな気持ちになれるものだった。

本屋さんのダイアナ

本屋さんのダイアナ

 

私の名は、大穴(ダイアナ)。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた――。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が……。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。 

直木賞候補や本屋大賞にもノミネートされていた作品。キャバクラ勤めの母を持つ、金髪の「ダイアナ」と、裕福な環境で育つお嬢様「彩子」。正反対の二人だけど、「本が好き」という共通点で近づいていく。この二人が、相手の世界=自分の知らない世界を知って、それを素直に「羨ましい」「素敵」と思っているシーンがとても良い。彩子はダイアナの家でファーストフードを食べたりゲームをしたり、ダイアナの母ティアラのかっこよさに感動し、ダイアナは彩子のアクセサリーや美味しいお菓子を作ってくれる彩子の母、教養のある父に憧れる。お互い無い物ねだりなんだけど、それを卑屈に思ったりはしない。家庭環境が全然違っても、妬んだり、バカにしたりしない。好きなものやいいと思ったものを口に出して、共有できる関係。それが清々しくてよかった。

成長していくにつれ、進路が変わり、些細なことですれ違い、さらには会話を交わすことがなくなってしまう二人。疎遠になっている間、それぞれの身に重たい出来事があって、つらい時期が続く。ダイアナは父親がいなくてキャバクラ勤めの母を持つという家庭環境から、そんな簡単にはいかないだろうなと予想はつくんだけど、「親に守られていた」大学生の彩子に、あんな事件が起こるなんてちょっと重たかった。傷ついているはずの心を傷ついたと感じないように、彩子が心を殺していく姿は、作者柚木さんのエグみを感じた。

でも、「あの子ならきっとこうする」と心の中にはお互いの存在が常にあって、知らず知らずのうちに助け合って、それぞれが「自分の呪い」を解いて自立したあとにイチから始まる関係はとっても深いもの。

最後のほうはちょっとご都合主義的展開だったり、彩子の身に起こる事件が重すぎるなーと思う部分もあった(なければ自分の子供に絶対勧めるのに…というくらいつらい)んだけど、こうやってお互いを助け合って高め合える関係って素晴らしいなと思う小説だった。