練る子は育つ

都内のIT企業で働く28歳女性。読書、音楽、ゲームの記録

本屋大賞ノミネート:塩田武士「騙し絵の牙」感想

本屋大賞2018ノミネート。
俳優の大泉洋を、主人公・速水に「あてがき」したという作品。

表紙だけじゃなくて、挿絵としても写真が出てきます。びっくりした。
私は「あてがき」された小説を初めて読んだんだけど(そういう手法があるのも知らなかった)、正直、全然大泉洋で脳内再生されないという残念な結果になりました。。

 

騙し絵の牙

騙し絵の牙

 

 大手出版社で雑誌編集長を務める速水。誰もが彼の言動に惹かれてしまう魅力的な男だ。ある夜、上司から廃刊を匂わされたことをきっかけに、彼の異常なほどの“執念”が浮かび上がってきて…。斜陽の一途を辿る出版界で牙を剥いた男が、業界全体にメスを入れる!

 

出版業界を舞台にしたお話。

「本が売れない」時代に、どうやって雑誌を売るか。自分が編集長を務める雑誌を廃刊させないように、いかにお金を稼ぐか。さらに、社内政治をどう仕切るか…。

私自身がメディアの周りで働いているということもあって、リアルな紙媒体事情を面白く読めた。

今作の主人公である、編集者・速水の「コミュ力」(というか「政治力」)は圧倒的で、「速水さんが言うなら」「速水さんには弱ったなあ」と彼を取り巻くすべてのひとをどんどん味方につけて、物事を前に進めていく。気の利いた一言で場を和ませ、決めるところはきちんと決める。頭の回転が早くて愛嬌たっぷりな速水は、魅力的で、絶対に敵にしたくないタイプだなと思った。

ただ、そんな彼でも家庭内コミュニケーションは超ヘタなんだよなあ。ていうか、奥さんをないがしろにしすぎだよ!仕事相手だったらそんなふうにしないでしょう。あまりに冷たいので、「過去奥さんからひどい仕打ちを受けた」的なカミングアウトが入るのかと思ったら何もないし。単純に「外と内」「仕事とプライベート」の対比を描くために差し込まれたんかな。

あと、最後に付け足されたような速水の過去。そんなもったいぶるような内容では正直なかったし、会社設立のシーンで気持ちよく?気味悪く?終わったほうが良かったような…。「騙し絵の牙」というタイトルだったので、「きっと速水が最後はひっくり返すんだろうな」とかまえていた部分もあり、会社設立に驚きはなかったです。

 

 

10年後これを読んだとき、いったい出版業界はどうなっていることやら…。